「サッカー王国」の変容——ブラジルで進むサッカー離れと、浮き彫りになる社会構造
https://www.theworldmagazine.jp/20260802/02national_team/499663
ワールドカップ最多5回の優勝を誇り、地球上で最もフットボールを愛する国として君臨してきた「サッカー王国」ブラジル。しかし今、その足元で静かな、しかし確実な構造変化が起きている。
最新の世論調査によって明らかになったのは、国民の約3割強が「サッカーに関心がない」と答えるという衝撃的な現実だ。王国で何が起きているのか。その背景を探ると、単なる代表チームの勝敗にとどまらない、現代社会の多様化と教育格差のリアルが見えてくる。
数字が示す「王国」の陰り:36%が「関心なし」
ブラジルの世論調査機関『Datafolha』が16歳以上の国民2,000人を対象に行った調査によると、サッカーに対する関心度は以下の結果となった。
- 「関心がある」:64%(うち「非常に興味がある」28%、「ある程度興味がある」35%)
- 「関心がない」:36%
3年前の同調査では「関心がある」が72%、「関心がない」が28%だったことと比較すると、わずか数年で「無関心層」が8%も増加したことになる。依然として過半数はサッカーを愛しているものの、絶対的なカルチャーとしての「全員がサッカーに熱狂する国」という像には、明らかな変化が生じている。
原因①:代表チームの長期的な停滞と熱狂の冷め
サッカー人気の低下と切り離せないのが、ブラジル代表(セレソン)の国際大会における低迷だ。
2002年日韓大会での優勝を最後に、ブラジルは20年以上ワールドカップの頂点から遠ざかっている。近年の大会でもベスト8敗退が相次ぎ、先日のW杯でもラウンド16でノルウェーに破れるという不覚を喫した。
かつて世界を魅了したジダン、ロナウド、ロナウジーニョ、そしてジーコといった「希望とアイデンティティの象徴」としてのヒーロー像が希薄になり、勝利が当たり前ではなくなったことで、ライト層の熱狂が急速に冷めてきている側面は否定できない。
原因②:教育レベル・所得層による「関心の非対称性」
今回のデータで最も興味深いのは、「教育レベルが高くなるほど、サッカーへの関心が高まる」という相関関係だ。
- 初等教育(小学生レベル):関心がある 49%
- 中等教育(中高生レベル):関心がある 67%
- 高等教育(大学レベルなど):関心がある 75%
伝統的にブラジルのサッカーは、「貧困街(ファヴェーラ)から一攫千金を狙う夢」「娯楽が少ない層にとっての唯一の熱狂」として語られることが多かった。
しかし現代において、低所得・低教育層ほど日々の生活の困窮やSNS・他エンタメの普及により「フットボールを観戦・追う余裕」を失い、逆に生活基盤と教育機会に恵まれた層ほど、スポーツを文化やコンテンツとして楽しむリテラシーや時間のゆとりを持っているという、皮肉な逆転構造が浮かび上がる。

【Perspective】「カルチャーの賞味期限」と、新たなアイデンティティの模索
来年6月には、ブラジルで女子ワールドカップの開催が予定されている。ブラジルサッカー連盟(CBF)のサミル・シャウド会長は「この大会が国民の関心を再び高めるきっかけになる」と期待を寄せる。
しかし、一国のアイデンティティそのものだったフットボールが「数あるエンタメの一つ」へと相対化されていく流れは、ブラジルに限らず世界的な潮流でもある。
- 「無条件に受け継がれる文化」から「選択されるコンテンツ」へ
- 個人の価値観の多様化と、スポーツが果たす社会的役割の変化
ブラジルで起きている「サッカー離れ」は、単なる一国のスポーツニュースではない。私たちがこれからフットボールという文化をどう定義し、次世代へどう紡いでいくのかという、グローバルな問いを投げかけている。
(Source: Datafolha調査データ / 海外報道より構成)



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